更新日:
2023年09月29日
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浅草橋の立ち食いそば『野むら』の黒いツユと「おかず横丁」、変わるものと変わらないもの
“暗黒汁”とも呼ばれる真っ黒いツユにゆで麺と、昔ながらのそばが味わえる浅草橋の立ち食いそば店『野むら』は、そのそばには似つかわしくないオフィスビルにあり、立ち食いそばファンの間では人気だ。そして、かつて賑わいを見せていた商店街「おかず横丁」には、その面影はなく……。町歩き的そば探訪連載「あの町のあのそば」第2回(2019年8月31日公開)
- 東京ソバット団
- 本橋隆司=美味い立ち食いそばを求めて西へ東へ...
東京屈指の濃さを誇る『野むら』の“暗黒汁”
浅草橋駅から歩いて8分ほど。清洲橋通りに出て北上したところにある『野むら』は、「暗黒汁」と呼ばれる、都内でも屈指の濃いツユが評判の店だ。
「ごぼう天そば」をいただくと、黒い丼になじむほどツユの色が濃い。口にしてみると塩辛さはなく、ギュッと濃縮されたうまみが口中を支配していく。
「ごぼう天そば」をいただくと、黒い丼になじむほどツユの色が濃い。口にしてみると塩辛さはなく、ギュッと濃縮されたうまみが口中を支配していく。
早くもツユに染まりつつある「むらめん」のゆで麺を持ち上げてズゾゾッとすすると、ツユの香りが一気に広がり、なんともうまい。
天ぷらはじっくり揚げられていて、衣が固め。これを暗黒汁に十分に浸してかぶりつけば、これまた染み込んだツユが口中にあふれる。
『野むら』はとにもかくにも、この暗黒汁を楽しむ店なのだ。
『野むら』はとにもかくにも、この暗黒汁を楽しむ店なのだ。
真っ黒いツユは『野むら』の歴史そのもの
このツユの秘訣は、毎日継ぎ足して作っているところ。
通常の店は、作ったツユはその日のうちに使い切ってしまうのだが、『野むら』では前日、残したツユに新しいツユを足して使っている。
これを何十年も続けているわけで、つまり歴史の詰まったツユなのである。
通常の店は、作ったツユはその日のうちに使い切ってしまうのだが、『野むら』では前日、残したツユに新しいツユを足して使っている。
これを何十年も続けているわけで、つまり歴史の詰まったツユなのである。
そんな『野むら』で人気なのが、このいか天そばだ。
そば屋のいか天らしく厚めな衣。それにしっかりとツユを染み込ませてかぶりつくのがうまい。
そば屋のいか天らしく厚めな衣。それにしっかりとツユを染み込ませてかぶりつくのがうまい。
下手ないか天だと皮の処理が甘く、噛み切れずにビローンと伸びてしまうこともあるが、ちゃんと切れ目が入っているのでさっくりと噛み切れる。
すぐ売り切れてしまうので、もしもバットにその姿を見かけることがあったら、ぜひ試してほしい。
濃いツユ、ゆで麺、固く揚げられた天ぷらと、『野むら』のそばは懐かしいスタイルなのだが、その店が入っているのが現代的なオフィスビルなのは少し滑稽だ。
当然、最初からこのビルに入っていたわけではなく、このビルの敷地の角で営業をしていた。
当然、最初からこのビルに入っていたわけではなく、このビルの敷地の角で営業をしていた。
その当時は親族と一緒に酒販店も同時に営んでいて、毎日がてんてこ舞い状態。子どもたちのごはんのおかずは、近くにある「おかず横丁」でよく買ってきていたのだという。
昭和の風情が残る「おかず横丁」「佐竹商店街」のいまを歩く
「おかず横丁」とは、『野むら』の少し北側、蔵前橋通りを渡ったところにある、長さ230メートルほどの商店街で、食料品や日用品の店が多く並んでいた。
もともとは違う名前だったが、近くにある、日本で二番目に古い商店街という謳い文句の「佐竹商店街」に対抗するため、惣菜店を推す“おかず横丁”という名前に変えたのだという。
もともとは違う名前だったが、近くにある、日本で二番目に古い商店街という謳い文句の「佐竹商店街」に対抗するため、惣菜店を推す“おかず横丁”という名前に変えたのだという。
おかず横丁のある鳥越は小さな町工場が多かったのだが、そんな工場ではお母さんも忙しく働いていた。
そんなお母さんたちにとって、いろいろな惣菜が売っているおかず横丁はとてもありがたく、往時は多くの人で賑わっていたそうだ。
そんなお母さんたちにとって、いろいろな惣菜が売っているおかず横丁はとてもありがたく、往時は多くの人で賑わっていたそうだ。
しかし、実際に歩いてみると、2019年現在、当時の賑わいはなかった。
平日の午後3時という時間帯のせいではないだろう。ほとんどの店のシャッターが閉まったまま、あるいはマンションなどの建て替えられているのだ。
町工場の数も減り、高齢化が進めば、おかずを買い求める人の数も減る。
当然といえば、当然のことなのだろう。
平日の午後3時という時間帯のせいではないだろう。ほとんどの店のシャッターが閉まったまま、あるいはマンションなどの建て替えられているのだ。
町工場の数も減り、高齢化が進めば、おかずを買い求める人の数も減る。
当然といえば、当然のことなのだろう。
とはいえ、おかず横丁の面影がうかがえる店はあり、焼き魚を売っている鮮魚店、佃煮店、漬物店などがある。また、古い店だけではなく、カツサンドが名物で『孤独のグルメ』(テレビ東京系)で取り上げられた居酒屋『まめぞ』など元気な店もある。
見どころだってたくさんある。通りを歩けば、年季の入った看板や職住一体の看板建築だらけ。
路地に入れば現役の町工場があり、道端には植木や朝顔が育てられている。そこかしこに残る昭和の雰囲気に、好き者は興奮のあまりムズムズしてくるはずだ。
好き者は自分だけでないようで、路地に向かってカメラをかまえている外国人観光客をチラホラと見た。下町の風情というのは、万国共通のようである。
路地に入れば現役の町工場があり、道端には植木や朝顔が育てられている。そこかしこに残る昭和の雰囲気に、好き者は興奮のあまりムズムズしてくるはずだ。
好き者は自分だけでないようで、路地に向かってカメラをかまえている外国人観光客をチラホラと見た。下町の風情というのは、万国共通のようである。
商店街を写真を撮りながらはじまで歩くと、7月の終わりということもあって汗だくになってしまった。
それでも先ほど、『野むら』の暗黒汁を十分に摂取していたので塩分補給はばっちり、ツラくはない。
おかず横丁のライバルである清洲橋通りを少し北上して、大江戸線新御徒町そばの「佐竹商店街」まで足を伸ばしてみた。
それでも先ほど、『野むら』の暗黒汁を十分に摂取していたので塩分補給はばっちり、ツラくはない。
おかず横丁のライバルである清洲橋通りを少し北上して、大江戸線新御徒町そばの「佐竹商店街」まで足を伸ばしてみた。
こちらは露天のおかず横丁と違い、屋根のあるアーケードなのだが、おかず横丁と同じく昭和の雰囲気がプンプン。そしてシャッターの閉まった店舗も多い。
『野むら』の大将によると、かつてはにぎわっていたのだが、御徒町にある紫色のディスカウントストア『多慶屋』が店舗を増やしたことで、客を奪われてしまったのだという。
『野むら』の大将によると、かつてはにぎわっていたのだが、御徒町にある紫色のディスカウントストア『多慶屋』が店舗を増やしたことで、客を奪われてしまったのだという。
ここでも外国人観光客が散策していて、精肉店でコロッケを買い求めていた。
変わるものと変わらないもの、東京の下町にはどちらもあるから飽きない
ビルに入り、今も変わらぬ味でファンを喜ばせている『野むら』。
周辺の変化で様変わりした「おかず横丁」。
多慶屋の勢いに押されてしまった「佐竹商店街」。
浅草橋から鳥越、新御徒町まで歩いてみると、時代の変化というものを肌身で感じることができる。ギュッと濃いツユのそばを食べがてら、ブラっと散策してみるのはいかがだろうか。
周辺の変化で様変わりした「おかず横丁」。
多慶屋の勢いに押されてしまった「佐竹商店街」。
浅草橋から鳥越、新御徒町まで歩いてみると、時代の変化というものを肌身で感じることができる。ギュッと濃いツユのそばを食べがてら、ブラっと散策してみるのはいかがだろうか。
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- 東京ソバット団
- 本橋隆司=美味い立ち食いそばを求めて西へ東へ。バッと行ってバッと食ってバッと帰る東京ソバット団の団長。そば以外にもフリーの編集、ライターとしてウェブなどで仕事中。近著『立ち食いそば大図鑑』(スタンダーズプレス)、FBページ「https://www.facebook.com/tokyosobatdan/」
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